函館建築散歩の2日目は、函館朝市での朝食から始まりました。地元の名物料理で英気を養った後は、日本唯一の星型要塞である五稜郭へ。武田斐三郎の設計による西洋築城術の傑作と、現代の伝統工法技術により140年の時を経て蘇った箱館奉行所を見学する、建築史的にも極めて価値の高い一日のスタートとなりました。
きくよ食堂支店で函館朝市の食文化を体感
2日目の朝は7時半頃、函館朝市にある「きくよ食堂支店」での朝食から始めました。当初は本店を予定していましたが満席のため、スタッフの方に支店へ案内していただきました。
店内は清潔感があり、朝の時間帯ということもあって地元の方や観光客がバランスよく利用されている印象です。接客は丁寧で、函館の老舗らしい落ち着いた雰囲気が感じられます。
名物の元祖巴丼を注文しましたが、確かに味は美味しく、海鮮丼としては及第点以上の仕上がりでした。ただ、北海道の海鮮丼ということで、もう少しネタが豪快に盛られていることを期待していましたが、思ったよりも控えめな量で、東京で食べる海鮮丼と大差ない印象でした。

駅前という立地柄、観光客向けのお店という側面が強く、地元の人が普段使いするというよりは、函館を訪れた人が一度は行ってみる老舗という位置づけなのでしょう。味自体は悪くないので、函館の食文化を知るという意味では訪れる価値があり、函館朝市の雰囲気を味わいたい方には良いお店だと思います。
五稜郭 – 武田斐三郎設計の西洋築城術の結晶
朝食を終えて向かったのは、函館が誇る特別史跡・五稜郭です。まずは五稜郭タワーに登り、高さ107mの展望台から星型要塞の全容を俯瞰しました。
五稜郭は、江戸幕府により安政4年(1857年)から7年をかけて築造された、日本でも珍しい星型要塞(稜堡式城郭)です。設計を手がけたのは伊予大洲藩出身の蘭学者・武田斐三郎(1827-1880)で、佐久間象山から航海・築城・兵学を、緒方洪庵から蘭学を学んだ当代一流の学者でした。

フランスの軍艦が函館港に入港した際にヨーロッパの築城技術が書かれた本を箱館奉行所に贈呈し、オランダ語が読めた武田斐三郎がそれを参考にして五稜郭の構造を設計したという経緯は、まさに西洋建築技術の受容における日本の知識人の高い学習能力を示しています。
展望台から見下ろす五稜郭は、正五角形を基調とした幾何学的な美しさが際立っていました。大正11年(1922)に国指定史跡とされ、さらに昭和27年(1952)には北海道では唯一の特別史跡に指定されたこの建造物は、単なる軍事施設を超えて、日本の近代化における西洋技術導入の象徴的存在といえるでしょう。
箱館奉行所 – 現代技術による伝統工法復元の偉業
五稜郭見学のハイライトは、復元された箱館奉行所でした。昭和60年(1985)から郭内の遺構調査が進められ、この結果に基づいて平成22年(2010)、庁舎全体の建築面積の3分の1とはいいながら、当時と同じ場所、伝統工法、同じ材木を使用して御役所(奉行所)庁舎の高い精度での復元をみたのです。

2006年着工、可能な限り当時と同じ材料を用いて同じ工法で建てることをコンセプトに、宮大工をはじめ日本全国から伝統建築技術に卓越した職人を集め、2010年6月末に完成したこの建物は、現代における伝統建築技術の継承という観点からも極めて重要な存在です。
内部では復元工事の映像記録も見ることができ、伝統的な木組み技法や榑葺き(くれぶき)屋根の施工過程を詳しく学ぶことができました。140年の時を経て蘇った奉行所は、単なる復元建築ではなく、現代の職人技術の到達点を示す建築作品としても評価されるべきでしょう。



特に印象的だったのは、釘を使わない木組み技法の精巧さです。江戸時代の大工技術がいかに高度であったかを実感すると同時に、それを現代に再現した職人たちの技術力の高さにも感動しました。
西洋と日本の建築技術が交差する場所
五稜郭での見学を通じて強く感じたのは、この場所が西洋の築城術と日本の伝統建築技法が出会った歴史的な交差点であるということです。武田斐三郎によるヨーロッパ築城技術の導入と、箱館奉行所に見る日本の木造建築技術の粋。この二つの建築文化が同一の敷地内に共存している例は、世界的に見ても稀有な存在といえるでしょう。
また、現代の復元技術によって蘇った奉行所は、伝統工法の継承という新たな建築史的価値も加わり、過去・現在・未来をつなぐ建築遺産としての意義を持っています。
午後の建築探訪に向けて
五稜郭での充実した見学を終え、午後は金森レンガ倉庫群や旧丸井今井呉服店函館支店、そして日本最古の手動エレベーターなど、また新たな建築的発見が待っています。
函館の建築文化の多層性を実感した2日目前半。西洋築城術の導入から伝統工法の現代的継承まで、時代を超えた建築技術の粋を一度に体感できる五稜郭は、建築愛好家にとって必見のスポットであることを改めて確信しました。


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