ロンドン建築巡り2日目 〜王室と学術の殿堂を巡る〜

ヨーロッパ

今日も続く奇跡の晴天

イギリス滞在2日目も、前日に続いて雲ひとつない快晴に恵まれた。「霧のロンドン」という言葉が嘘のような澄み切った青空の下、今日は王室ゆかりの聖域と、人類の知の集積地を訪ね歩く。石造りの重厚な建築群が、陽光を浴びて一層その存在感を増している。

ウェストミンスター寺院 〜ゴシック建築の最高峰〜

朝一番に足を向けたのは、英国王室の聖地ウェストミンスター寺院。1245年にヘンリー3世によって再建が始まったこの寺院は、フランスのゴシック建築を範とした英国初の本格的ゴシック様式建築として、建築史上極めて重要な位置を占めている。

西正面に立つと、その垂直性への強い意志に圧倒される。高さ69メートルに達する双塔は、1745年にニコラス・ホークスムーアによって完成されたもので、中世ゴシックと18世紀ゴシック・リヴァイヴァルの絶妙な調和を見せている。正面扉上部の薔薇窓は直径10メートルを誇り、朝日を浴びて内部のステンドグラスが宝石のように煌めいている。

身廊に足を踏み入れると、高さ31メートルの天井が頭上高くに広がる。リブ・ヴォールト(肋骨式穹窿)の精緻な構造美は、ゴシック建築の構造技術の粋を集めた傑作である。束ね柱から放射状に伸びる石材のリブが、まるで石の森を思わせる荘厳な空間を創り出している。

特に目を引くのは、ヘンリー7世礼拝堂の扇形ヴォールト(ファン・ヴォールト)である。1503年から1519年にかけて建造されたこの礼拝堂は、垂直式ゴシック(パーペンディキュラー・ゴシック)の最高傑作とされ、扇を広げたような石の天井装飾は、まさに石工技術の極致を示している。

ビッグベン 〜ヴィクトリア朝ゴシック・リヴァイヴァルの象徴〜

ウェストミンスター宮殿の北端に聳える時計塔、通称ビッグベンは、1859年に完成したゴシック・リヴァイヴァル建築の傑作である。設計者オーガスタス・ピュージンとチャールズ・バリーは、中世ゴシック様式を19世紀の技術で蘇らせ、英国議会政治の象徴として相応しい威厳ある姿を実現した。

高さ96メートルの塔身は、地上から時計文字盤まで55メートル、そこから尖塔の頂点までが41メートルという絶妙なプロポーションを持つ。外壁はアンストン産の石灰岩で築かれ、細やかなゴシック装飾が全面に施されている。各面に配された時計文字盤は直径7メートルを誇り、その時計機構は今なお1859年当時のものが現役で稼働している驚異的な精密技術の産物である。

晴天の青空を背景に、金色に輝く時計文字盤と尖塔の美しさは息を呑むほどだ。毎時響き渡る鐘の音は、重量13.76トンの大鐘「ビッグベン」をはじめとする5つの鐘によるもので、ロンドン市民にとって時の刻みを告げる最も親しまれた音色となっている。

大英博物館 〜新古典主義の壮大なる殿堂〜

午後は、人類の叡智が結集する大英博物館へ向かった。1753年に設立され、現在の建物は1823年から1847年にかけて建築家ロバート・スマークによって設計されたこの博物館は、英国新古典主義建築の最高峰として評価されている。

グレート・ラッセル・ストリートに面した正面ファサードは、圧倒的な水平性と古典的秩序美を誇る。幅115メートルに及ぶ正面には、44本のイオニア式列柱が整然と並び、古代ギリシャのパルテノン神殿を彷彿とさせる荘厳さを醸し出している。各柱の高さは13.7メートルに達し、ポートランド石の白さが青空に映えて美しい。

中央のペディメント(三角形の破風)には、「文明の進歩」を表現した彫刻群が配されている。これは彫刻家リチャード・ウェストマコットの作品で、人類の知識と芸術の発展を寓意的に表現した傑作である。

2000年に完成したクイーン・エリザベス2世グレート・コート(通称:グレート・コート)は、建築家ノーマン・フォスターによる現代建築の傑作である。直径140メートルの円形空間を覆うガラスと鋼鉄の屋根は、3,312枚の異なる形状のガラスパネルで構成され、自然光を内部に導く現代技術の粋を集めている。古典建築と現代建築の見事な対話が実現された空間である。

自然史博物館 〜ロマネスク・リヴァイヴァルの傑作〜

1日の最後は、サウス・ケンジントンの自然史博物館。1881年に開館したこの建物は、建築家アルフレッド・ウォーターハウスによるロマネスク・リヴァイヴァル様式の傑作として、建築史上極めて重要な位置を占めている。

エキシビション・ロードに面した正面は、赤茶色のテラコッタ(テラ・コッタ)で装飾された美しいファサードが迎える。全長220メートルに及ぶ建物正面の中央には、高さ67メートルの双塔が威風堂々と聳え立つ。ロマネスク様式特有の半円アーチと、細やかな動植物装飾が全面に施された外観は、まさに自然史博物館に相応しい生命力あふれる表現となっている。

最も印象的なのは、中央ホール(現在のヒントゼ・ホール)の大空間である。幅30メートル、奥行き60メートル、高さ24メートルのこの壮大な空間は、リブ・ヴォールト天井とアーチ回廊が織りなすロマネスク建築の美しさを現代に伝えている。テラコッタ装飾には実に様々な動植物がモチーフとして用いられ、建物全体が巨大な生物図鑑のような趣を呈している。

特筆すべきは、ウォーターハウスが採用した建材の革新性である。外装に使用されたテラコッタは、産業革命期の新技術により大量生産が可能となった人工石材で、複雑な装飾を比較的安価に実現することを可能にした。この技術革新により、中世の石工芸術を19世紀に蘇らせることができたのである。

王室と学術、二つの権威の表象

2日目の建築巡りは、英国の二大権威-王室と学術-を象徴する建築群との出会いであった。ウェストミンスター寺院とビッグベンが体現する王室と政治の威厳、大英博物館と自然史博物館が表現する学術と知識の尊厳。それぞれが異なる建築様式を通じて、英国文化の深層を物語っている。

中世ゴシックから19世紀ゴシック・リヴァイヴァル、新古典主義からロマネスク・リヴァイヴァルまで、各時代の建築家たちが先人の技術と美意識を継承しながら、新たな表現を生み出してきた歴史の重層性を実感した一日だった。

奇跡的な晴天に恵まれた今日も、石造建築の美しさを存分に堪能することができた。明日は最終日、どのような建築との出会いが待っているだろうか。

今回訪れた建造物

ウェストミンスター寺院 Dean’s Yard, London SW1P 3PA イギリス

ビッグ・ベン 〒SW1A 0AA London, ロンドン

大英博物館 Great Russell St, London WC1B 3DG イギリス

ロンドン自然史博物館 Cromwell Rd, South Kensington, London SW7 5BD イギリス

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