ふと「どこか近場で、のんびりしたいな」と思い立った休日。向かった先は、東京から新幹線であっという間の温泉地、熱海。でも、今回の目的は温泉にあらず。あえて目的を決めすぎず、気の向くままに街をぶらぶら歩いて、美味しいものに出会う。そんな気ままな大人の日帰り旅の記録です。
旅のはじまりは熱海駅から。活気あふれる商店街へ


(写真:多くの観光客で賑わう熱海駅前の商店街と店先の干物)
熱海駅に降り立つと、そこはもう活気に満ちた別世界。駅前の平和通り商店街と仲見世通り商店街には、干物屋さんの香ばしい匂いや、温泉まんじゅうの甘い湯気が立ちこめ、旅の気分を一気に盛り上げてくれます。ずらりと並んだお店をひやかしながら、人々の流れに乗ってのんびり歩くのが楽しい。
今日の最初の目的地は、駅から10分ほど歩いたところにある老舗の和洋菓子店「住吉屋熱海本店」さん。お目当ては、ヒルナンデス!にも取り上げられたらしい「とろけるチーズケーキ」です。

(写真:ふわふわのスポンジに包まれた、とろけるチーズケーキ)
名前の通り本当にとろっとろ!持ってるだけで潰れてしまいそうで、一口食べたら残りをこぼさずに持っているのが難しいほどでした。味は濃厚でクリーミーなチーズの風味が広がります。甘すぎず、後味はさっぱり。これは散策のエネルギーチャージにぴったりです。
昭和の浪漫へタイムスリップ。名邸「起雲閣」で知る熱海の奥深さ
美味しいスイーツで心もお腹も満たされたら、少し足を延ばして、熱海が誇る名邸「起雲閣」へ。ここは単なる観光名所ではありません。大正、昭和、平成と時代を超えて、熱海の歴史と文化を静かに語り継ぐ、生きた博物館のような場所なのです。
「熱海三大別荘」の一つと謳われたその始まりは、大正8年(1919年)。海運王として財を成した内田信也氏が、母のために建てた緑豊かな別邸でした。その後、昭和期に鉄道王・根津嘉一郎氏の手に渡り、さらに桜井兵五郎氏が旅館として開業。その過程で増改築が繰り返され、日本の伝統的な美と、西洋の華やかなデザインが融合した、類まれな建築空間が生まれたのです。
旅館時代には、志賀直哉、谷崎潤一郎、太宰治、山本有三といった日本を代表する文豪たちが定宿とし、多くの名作の舞台にもなりました。彼らが愛した空間に、今、自分も立っている。そう思うだけで、背筋が伸びるような特別な気持ちになります。
和の粋を極める – 息をのむ日本の伝統美

(写真:加賀の青漆喰で仕上げられた「麒麟」の間の鮮やかな群青色の壁)
順路に沿ってまず足を踏み入れるのは、和の空間。特に、入ってすぐの「麒麟」の間は圧巻です。目に飛び込んでくるのは、”加賀の青壁”と呼ばれる鮮やかな群青色の壁。日本の伝統的な顔料で仕上げられたその色は、気品と風格に満ちていて、思わず息をのみます。精緻な細工が施された欄間や折上格天井など、隅々まで日本の職人技の粋が集められています。
畳が敷かれた長い廊下を歩けば、窓の外には手入れの行き届いた庭園の緑。ガラス窓に反射する光が畳に落ちる様子もまた美しく、縁側に腰を下ろして庭を眺めていると、文豪たちがここで静かに思索にふけった情景が目に浮かぶようです。
西洋の浪漫に酔う – 華麗なる和洋折衷の世界

(写真:アール・デコ調の装飾とステンドグラスが美しい洋館「玉姫の間」のサンルーム)
和の空間を抜けた先に広がるのは、雰囲気が一変する華やかな洋館エリアです。 ひときわ優雅なのが、アール・デコ様式のデザインが美しい洋館「玉姫の間」。特にサンルームは必見です。床のタイル、幾何学的なデザインの照明、そして窓に配された色鮮やかなステンドグラス。そこから差し込む柔らかな光が、部屋全体をノスタルジックな雰囲気で満たしています。備え付けのソファに座れば、まるで往時の貴婦人になったかのような気分を味わえます。
そして、忘れてはならないのがローマ風浴室(洋館「金剛」内)。映画『テルマエ・ロマエ』のロケ地としても有名になったこの場所は、アーチ型の窓とステンドグラスが特徴的な、荘厳で幻想的な空間です。当時の最先端のデザインと贅を尽くした浴室から、かつての華やかな時代を垣間見ることができます。


庭園が繋ぐ、和と洋の物語


これらの個性豊かな和館と洋館を優しく繋いでいるのが、中央に広がる池泉回遊式の美しい庭園です。建物のどこからでもこの庭園を眺めることができ、建物と緑が一体となった景観は見事としか言いようがありません。青々とした木々が輝く夏、色鮮やかな紅葉に染まる秋と、四季折々で全く違う表情を見せてくれるのでしょう。
建物だけでなく、庭園をゆっくりと散策し、様々な角度から起雲閣の全景を眺めるのもまた一興です。
ただ見て回るだけでなく、その歴史的背景や建築の細部にまで目を向けると、起雲閣の魅力はさらに深まります。散策後には、敷地内にある喫茶室「やすらぎ」で庭園を眺めながら一息つき、歴史の余韻に浸るのもおすすめです。


熱海に来たら必ず訪れてほしい、何度でも訪れたくなる。起雲閣は、そんな奥深い魅力に満ちた場所でした。
坂の途中のご褒美ランチ!海の幸と静岡の地酒
起雲閣で心静かな時間を過ごした後は、またぶらぶらと駅の方向へ。細い路地と坂道が続く、どこかノスタルジックな雰囲気。
そんな坂の途中で、ふと足を止めたお店でランチタイムにすることに。お邪魔したのは「坂まち」。この夏オープンしたばかりのお店ですが、魚とシャリにこだわる店主の思いがこもったお店でした。いただいたのは、「海の皿めし」。魚はどれも新鮮であっという間に完食。


(写真:海の皿めしと、静岡ビール・日本酒「英君」)
最高のランチのお供には、まずは「静岡ビール」で喉を潤し、続いて静岡が誇る地酒「英君(えいくん)」を一杯。日本酒らしい味の英君が、魚介の旨味を引き立ててくれます。これぞ、ぶらり旅の醍醐味です。
旅の締めは意外な出会い。ロシア料理とクラフトビール
ランチ終わって再び駅方面にを散策していると、気になる看板を発見。「クラフトビールとロシア料理 Cafe Beluga」。ロシア料理?熱海で?この意外な組み合わせに興味を惹かれ、吸い込まれるように入店。


(写真:鮮やかな赤色のボルシチと、個性的なラベルの反射炉ビール)
ガッツリ皿めしを食べた直後でお腹いっぱいだったものの、メニュー見てたら食べたいものがいろいろ。旅の締めくくりに、優しい味わいの「ボルシチ」と、さっぱりとした「ロシア漬け」をいただくことに。ビーツの深い赤色が美しいボルシチは、野菜の甘みが溶け込んだ、心まで温まるような一品。
そして、合わせるお酒は、伊豆の国市で作られている「反射炉ビール」。数種類ある中から選んだ一杯は、フルーティーな香りと豊かなコクが特徴で、ボルシチとの相性も抜群でした。熱海でこんな素敵な出会いがあるなんて!
駅へと向かう帰り道。美味しいグルメでお腹は満たされ、美しい景色と歴史で心も満たされ、大満足の1日。
王道の温泉旅行もいいけれど、たまにはこんな風に、自分の足と感性だけを頼りに街をぶらぶらしてみるのも、熱海の新しい魅力を発見できる最高の過ごし方かもしれません。
次の休日は、あなたも熱海で気ままな「ぶらり旅」はいかがですか?
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